はっずれーー!

シグマリオンを放置したまま、GBAなんぞをいじくるも消化不良にて
今更ながらこんなんを読んでみました。

人形(ギニョル)

人形(ギニョル)


まずは端的に…超ハズレです!
ワタクシ、ホラー大好きです。
ちょろちょろっと批評なんぞもサーフして「これ、ホラーか?」というご意見も読みましたが
ここまでホラーの欠片もねぇとは。
ホラーって恐怖よ、恐怖!
怖がらせてヨ!
ついでに、SM大好きです。哲学的SMから実践的SMまではばひろーく愛読して参りました。
そういう意味でも全然アウトです。

以下、ネタバレ気味にレビューです。


主人公はSM小説家。一度は家庭を持つものの、副業として始めた創作活動が妻にバレ、離婚。
以降場末のゲイバーに出入りしては小説家業に精を出していた。
そんな折、ふとした勘違いから主人公は「人形(ギニョル)」と呼ばれる男娼を紹介される。
ハーフのような容貌のその少年は傷だらけの身体を持ち、浮浪者同然の生活を送っていた。
主人公はその少年の生い立ちを聞き出そうとするが、少年はまともな言葉を発しようとしない。
その呼び名の通り何の感情も持たないような少年に、主人公は自分も自覚していなかった
”現実”の可虐性に追い立てられる。
少年の身体に彫りこまれた奇怪な刺青に気づいた主人公に、少年は二度と近寄らないほうが
あなたのためだと告げる

奇妙な一夜の後、主人公は懇親にしているカメラマンに人形の話を告げる。
彼に興味を持ったカメラマンと共に二人は少年を探し出し、保護という名のもとに監禁を始める…




ワタクシ同様にSM?平気だよ!むしろ好き!
と公言してハバカラヌ輩は、上記の導入を読んで「ああ、またかい」と思うでしょう。
が!この小説は仮にもホラー大賞受賞作ですぞ!ここは他とは違…

…わないです。
はっきりいって、濡れ場の少ない耽美小説ナミに、ダサいわ、今更だわ。
美少年が傷だらけで、監禁にものんべんだらりとしていて、…のわりに反抗的で。
キャラクター自体がもう腐臭を放つほどに今更なんです。
アキバ系の萌えキャラのごとく、2CHユーザのごとく、大量生産のニオイがぷんぷんです。
ま、まあ、ここは「人形」ですから?
強烈なキャラクター性やユニークさを持ってはイカン、という事なのかもしれません。

監禁に至り、そのほのぼのしたやりとりや、蛇足のようにつけたされるSM行為も
安っぽいSM小説(しかも、女性向けのコテコテな世界観まんま)ばり。
悪いことは言わない。サドくらい読んでくれ、と訴えたくなる陳腐さです。
SMっていうのは単に道具を使う事、と勘違いしちゃってる処女のごとくな内容。
言うなれば、サドもマゾもおらんのです。どこがSMやねん。
…あ、ホラーだった。

人形、も主人公、も、友人のカメラマンも、
これをホラーだSMだと言えるのは、その世界をご存知ない初心な方々でしかなく
これだけサブカルが蔓延した世の中でそんな夢のような評価がでる事自体、
まだまだ世の中アブノーマルに対して知識という免疫がないというべきなんでしょうか?
ラストのシーンもまんま女性向な展開で、見え見えなキャスティング。
更に描写がこれまた酷い。
「スナッフ」でビビりまくったチャーリー・シーンでも笑うんじゃないかと。
勿論、ここは「人形」ですから?
リアルな描写や現実味は抹殺した結果なのかもしれません。(…でも、それに何の意味が?)


ぶっちゃけ、この小説ってネットやらでSMを表面的になぞって、
その視覚的な新鮮さにビックリした人がついつい書いちゃった、みたいな。
そんな初々しさにまみれているのです。
中盤、主人公と友人と、球体間接人形師がアングラ出版を試みるのも、まんま「同人誌」の世界。
初めてオフラインで出版して、その動向を目の当たりにしてコーフンしちゃってる
(ついでに落ちぶれて自分の本を懐かしげに眺めてる)
そんなまんまの姿です。



…はっきりいって、プロレベルじゃないヨ!この小説!
某女氏のように世のアングラな事情を無垢なインタビュアーに徹して書くならいざ知らず…
自分の作り上げた世界で、更に「プロ」がこんなんじゃイカンだろう!

お耽美なボーイズラブでキチクものが大好き!なオンナノコだって、
こんな内容じゃ「却下」をつきつけるでありましょうぞ。
でも、そういう人にしか需要がないんじゃないか?と思っちゃうようなオソマツさ。

唯一恐ろしいのは冒頭の主人公であります。
主人公はフツーの会社員でありながらアパートを借りてそこでSM小説を書いていたのですが、
それを妻に見つかり、いきなり離婚されます。
妻は主人公に何も言わず、何の論議もないままに。
(それゆえに妻の両親からは逆に恐縮されている始末)
そして、それを自分の(架空であったとしても)異常さゆえと受け入れ、
あまつさえ生身の人間に欲情さえしなくなる主人公。



こ、こっわーーーーー!!!!
つうか、ナニ?この夫婦。
紀元前の生まれ!?(てか紀元前でもサ…;)
本全体にもいえますが、あまりの免疫のなさに笑うに笑えません。
自分をオタクと自覚していなかった男が、オタクだと自覚してしまった図ですね。

この無菌っぷりが唯一ホラーといえばホラーでしょう。
ただ、もしも「自分がノーマルだと信じている人間がここまで無知・無菌だったとしたら…」
コワイ、コワイですよ。
いわゆる、オタク狩する反面的な人間じゃないですか。

そこに居る事すら、関わることすら、拒否される存在。
それが単なるSM小説家って理由ですぜ。
浮気をしたでも、奥さんに無体を働いたでもなく。
ただアブノーマルな空想を紙に書いた、というだけで。
(その辺りを良作で見たいならホアキン君の「クィルズ」か「8mm]にて)


というわけで、総評です。
SMってナニ?ゲイってナニ?等身大フィギュアってナニ?って人には衝撃を与えるでしょう。
ホラーにもサスペンスにもなりえるかもしれません。
…かもしれませんが、無知と無免疫が醸し出す衝撃しか持ち得ない作品でしかないです。
しかも、ステレオタイプに不快感を覚える人間にしか効果がないときています。
どーしたもんか。